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こどもたちは「夢の中」へと誘われる かんじきを履き秘境の地を目指した自然体験会レポート

  • 3月31日
  • 読了時間: 5分

更新日:5月14日


 2026年の冬は、日本全国が記録的な大雪に見舞われた。多くの人たちが連日の除雪作業にいそしみ、大人は身体の奥にたしかな疲労を感じていただろう。このイレギュラーな日々に、こどもたちもさぞ疲れているのではないか……。大人たちの心配は、こどもたちにとってまったくの杞憂であった。そのように感じた、とある1日について綴りたい。


 2026年2月に開催された自然体験プログラム「雪山であったかラーメン」は1メートルを優に超える雪が積もった裏山を舞台に、かんじきを履き、普段は立ち入れない雪山を登る。そして山頂でラーメンを作って食べるという企画だ。


曹洞宗・鶏谷山「花栄寺」
曹洞宗・鶏谷山「花栄寺」

 プログラムの集合場所は柏崎市木沢(野田地区)にある曹洞宗・鶏谷山「花栄寺」。1日の幕開けとして、花栄寺二十七世住職・九里悠禅氏によるお経を拝聴する。



 荘厳な響きに心を鎮めたのち、いよいよ雪山への挑戦が始まる。



 当日に参加したこどもたちは異なる小学校区から集まった、男女合わせて計6人。もちろん「初めまして」な仲のこどもも多い。彼ら彼女らは2班に分かれ、荷物の運搬を分担する。お湯を沸かす鍋から食材、大きなスコップに至るまで、すべて自分たちの手で運ばなければならない。かんじきをしっかりと足に括り付け、「花栄寺」の裏山へと足を踏み入れた。


「かんじき」
「かんじき」

 普段は鬱蒼とした木々に阻まれて通ることができない奥地も、すっぽりと雪に覆われた今なら進むことができる。その高揚感はこどもたちにとって、まるでRPGのTVゲームで裏技をつかわないと侵入できないエリアに足を踏み入れる感覚に近いだろう。



 ボフっ、ザザっーー。1歩一歩、雪を踏みしめる音が響く。自身と自然が一体になる感覚を味わいながら、一行は山の奥へ、奥へと進んでいく。



 ときに山中で立ち止まり、鳥の鳴き声に耳を澄ます。



 30分ほど雪道を歩くと、一行は木々の開けた場所へと到着した。



 辺り一面が雪で覆われた、まごうことなき銀世界。奥には厚く雪化粧をまとった米山がそびえ立つ。その迫力は圧巻だ。



 見渡す限り広がる白い雪のキャンバスに、まずは自分たちの「拠点づくり」が始まる。一面に広がる豊富な雪という資源を活用し、テーブルやいすを思い思いに形作っていく。



 とある班は外壁まで作り上げる本格派の拠点を作ろうと計画。



 一方、もうひとつの班は拠点作りもそこそこに早々にラーメン作りへと取り掛かっていた。当然ながらガスコンロなどの便利な道具はなく、火起こしからのスタートである。用いるのはマッチや新聞紙、木材といった資源だ。



 マッチを擦ると、火が灯る。当たり前の現象である。ただIHヒーターが普及しつつある現代において、火を直接目にする機会は確実に減少しつつある。現に筆者であるわたしの住居もオール電化住宅だ。そんな現代で感じる火の温かさ、熱は、当たり前であるがリアルだ。百歩譲って火を見ることはあるかもしれないが、火起こしを行う機会なんて現代にほとんど存在していない。



 一抹の火に新聞紙をくべる。火はやがて炎となり、鍋に張った水が沸騰を始める。お湯が沸くのを待つ間も、こどもたちはじっとしていない。ラーメンを作りながら雪合戦が始まり、雪原に元気な声が響き渡る。



 野菜に火が入り、豚肉と中華麺、スープの素を入れる。もう食べられる状態か、豚肉に火は通ったか、仲間たちで確認し合う。「早く食べよう」と焦る子もいれば「もう少し待とう」と慎重な子もいる。



 ラーメンが完成したら班員みんなで「いただきます」。自分たちで荷物を運び、苦労して起こした火で作った熱々のラーメンの味は、言うまでもない。


 山頂に到着してからラーメンが完成するまで、ひときわ目を引く光景があった。ひとりの男の子が上半身裸になって雪を掘り続けているのだ。


 当日は気温が10度以上あり、いつもより暖かかった。……とはいえ、ここは冬の雪山である。しかし彼は寒さを忘れたかのように、ただ夢中で雪を掘り、火を起こしていた。



 特徴的だったのは男の子の姿よりも、その特異な姿に対する周りのこどもたちの反応だ。誰ひとりとして、彼を茶化す者がいなかったのである。


 裸の彼を周りが馬鹿にしない環境こそ、このプログラムが作り出した「居場所の安心感」の表れなのだろう。はたまた他のこどもたち自身も自分の目の前の遊びに「夢中」で、裸であることの不思議さなどを考える暇もなかったからかもしれない。


 一面の銀世界で火を囲み、ラーメンを食べるこどもたち。普段は立ち入れない裏山の深部という環境も含め、そこはまるで夢の中のような不思議な場所であった。日常の喧騒から切り離された、こどもたちだけの熱気あふれるユートピア、まさしく「夢の中」であったことは間違いない。



 その日の夕方、一行は長い下り坂を歩いて帰宅の途についた。一日中雪山で遊び尽くしたこどもたちの足取りは、満足感と心地よい疲労感に包まれていたことだろう。


「花栄寺」の長い下り坂を歩くこどもとスタッフ 奥には迎えに来られた保護者さんの姿が見える
「花栄寺」の長い下り坂を歩くこどもとスタッフ 奥には迎えに来られた保護者さんの姿が見える

 彼ら彼女らは家族のもとへ帰り、今夜は温かい布団の中で再び「夢の中」へと赴く。あの白く不思議な雪山の景色を、再び目にしているはず。あの子もまた服を脱ぎ捨て、雪遊びに「夢中」になっている……そんな光景が大人たちの目に浮かぶ。


(文・写真/サトウマサト)


※「iLab Magazine(記事)から問い合わせた」旨を添えていただけますと幸いです。

■サトウマサト[スタッフ名:くまさん]
柏崎市出身。被災地の教育支援、離島の学校教育に関わりつつ、複数のメディア媒体の業務に従事。2022年に個人事業主(フリーライター)として独立。本サイトの取材、写真撮影、記事制作、ホームページ制作を手掛ける。一児の父。

 
 
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